AmazonやGoogle、Appleなど、海外メーカーの独壇場といった印象のあるスマートスピーカーですが、意外にも九州を地盤とする九州電力が“日本生まれのAI”と銘打った独自の音声アシスタントを採用するスマートスピーカーを含むスマートホームサービス「QuUn」(キューン)を販売しています。知られざる和製スマートスピーカーQuUnは海外勢よりも優れているのかどうか、実力を試してみました。
QuUnは、九州電力が2019年7月にサービスを開始した月額制のスマートホームサービスです。スマートスピーカーは、声をカスタマイズできる独自の音声アシスタントを採用しており、なおかつ全国で利用できるという意欲的な内容となっています。今回、九州電力の管轄外エリアとなる東京で実際に使って試してみました。
スマートスピーカーで音声アシスタントが利用できる「QuUnボイス」(月額税込み550円、他の有料サービス契約時は無料)に、家電を操作する「QuUnオートメーション」(月額税込み572円)や、自宅の安全を守る「QuUnセーフティ」(月額税込み792円)など好みのサービスを追加して契約すると、必要な機材が送られてくる仕組みです。もちろん、九州電力の管轄外の地域でも契約・利用が可能です。
大きく分けて、声で話しかけてさまざまな操作をするスマートスピーカー「AIスピーカー」と、AIスピーカーを通じて操作するリモコンやサイレン、センサーなどさまざまなスマートホーム関連機器、そしてインターネットと接続してすべての操作を司る「ホームゲートウェイ」の3つの機器から構成されています。したがって、QuUnを利用するためには、ホームゲートウェイをインターネットに接続したあとにAIスピーカーをWi-Fiネットワークに接続し、その後スマートフォンアプリを通じてAIスピーカーとスマートホーム関連機器をペアリングする、という3つの手順が必要になります。
ここで重要なポイントとなるのが、自宅のWi-Fi環境です。なぜなら、ホームゲートウェイやスマートスピーカーをWi-Fiに接続するためには「WPS」が必須だからです。WPSが備わっているルーターやアクセスポイントであれば、ボタンを押すだけでそれぞれの機器に簡単に接続できるのですが、WPSが搭載されていないルーターなどに向けた接続方法は用意されていません。
ホームゲートウェイは有線LANに接続することも可能ですが、AIスピーカーはWi-Fi接続のみとなっているため、WPS非対応のルーターなどを使っている人は、Wi-Fiルーター自体を買い替えるか、WPS対応のアクセスポイントを追加するなどの対応が必要になります。実は、筆者宅で使用していたルーターもWPS非対応であったことから、QuUnを使うためにWPS対応のアクセスポイントを用意する必要がありました。
最近は、グーグルの「Google Wifi」などのように、海外製のものを中心としてWPS非対応のWi-Fiルーターやアクセスポイントも少なからず存在します。接続方法をWPSのみに絞ることで簡単さを打ち出したいのでしょうが、九州電力の管轄外の幅広いユーザーにサービスを提供するのであれば、WPS非対応の環境でも機器を接続できる仕組みが欲しかったところです。
機器のWi-Fi接続とペアリングが完了すれば、QuUnのサービスを実際に利用できるようになります。なかでも注目されるのは、独自の音声アシスタントを搭載したAIスピーカーの使い勝手ではないでしょうか。
AIスピーカーをグーグルの「Google Home」と比べてみると、高さはほぼ同じで、やや横幅が大きいという程度。サイズやデザインは一般的なスマートスピーカーといった印象です。ただし、表面の加工などは樹脂製のボディそのままといった印象で、インテリアとしての高級感は薄い印象があるのが残念なところ。とはいえ、本体上部には音量調節やマイクのミュートなどのボタンが備えられ、操作は分かりやすくなっています。
実際に操作するには、標準のトリガーワードである「ハロミント」と声をかけた後、「今日の天気は?」などと話しかける形となり、このあたりの操作は他のスマートスピーカーなどと大きく変わりません。ただし、AIスピーカーのマイク性能はGoogle HomeやAmazon Echoなどと比べると高くないようで、声が小さい人は多少大きめの声で話しかける必要があるように感じました。
利用できる機能も一般的なスマートスピーカーとそん色なく、ニュースや天気を確認したり、占いやじゃんけんをしたり、アラームやタイマーをセットしたりすることが可能。スキルの追加などができるわけではありませんが、高度な機能を求めるのでなければ十分といえるでしょう。
ただ1つ気になったのはBGMの再生です。QuUnは音楽サービスなどには対応していないものの、ジャンルや「夜」「にぎやか」などのシーンを指定することで、7万曲以上の中からBGMを再生してくれる機能が備わっています。
しかしながら、実際にAIスピーカーに指示をしてBGMを再生したところ、指示をしてからBGMが再生されるまでに1分近く時間がかかってしまいました。BGMを再生してみても、Google HomeやAmazon Echoなどと比べ音質も高いとはいえない印象であることから、この機能はあくまで“おまけ”と捉えておいた方がよいかもしれません。
他にはないQuUnならではの機能といえるのが、音声アシスタントの声を変えられることでしょう。標準のボイスは、声優の雨宮天さんの声から作られたものとなっており、機械的な印象が強い他の音声アシスタントと比べると、温かみのある声が特徴的に感じます。
QuUnでは標準ボイスとは別に、「SMART」「FRIENDLY」「PRETTY」などの6つから選んでボイスを追加することも可能となっています。声の変更はスマートフォンアプリ上から可能で、選ぶボイスによって声が変わるのはもちろんのこと、「PRETTY」は「だにゃん!」、「CUTE」は「ですわ」といったように、ボイスによって表現方法が異なるというユニークな特徴も備えています。
しかも、これらの声を呼び出す時のトリガーワードは、自由に設定することが可能。多くの音声アシスタントはトリガーワードを変更できないだけに、これはQuUnならではの大きなポイントといえるでしょう。
また、別途月額385円(税込み)を支払うことで、「妖怪ウォッチ」の人気キャラクター「ウィスパー」のボイスを利用することも可能です。こちらも専用のトリガーワードが用意されており、それを話しかけることで呼び出すことが可能。「うぃっす」などウィスパーが使う表現がしっかり取り入れられており、妖怪ウォッチファンにはたまらない内容といえそうです。
最後に、スマートホームに関連するサービスについて触れていきましょう。今回は、家電の操作ができる「赤外線コントローラ」を用いた「QuUnオートメーション」を実際に使ってみました。
QuUnオートメーションは、部屋ごとに登録した家電を、AIスピーカーとペアリングした赤外線コントローラーを通じて操作できるというもの。登録できる家電はエアコン、照明、テレビの3種類で、スマートフォンアプリ上から家電のメーカーと本体の型番、もしくはリモコンの型番を基に設定できるほか、照明とテレビに関してはプリセットの設定がない場合、リモコンを使って学習させることも可能です。
一度設定したら、あとはトリガーワードのあとに「テレビをつけて」「エアコンを消して」などと話しかけるだけで操作が可能。「30分後に消して」などとして、タイマーによるコントロールも可能ですし、テレビは「NHKにして」などと話すことでもチャンネル変更が可能です。
さらに、特定のワードから複数の操作を同時にできる「統合操作」をスマートフォンアプリ上から設定しておくことで、例えばAIスピーカーに「おはよう」と話しかけると、今日の天気を伝えるとともにエアコンとテレビをつける、などといった操作をまとめてすることも可能になります。
Google HomeやAmazon Echoなどを使ってスマートホーム環境を整えるには、対応する周辺機器を自分で1つずつそろえて細かな設定をする必要があることから、自分好みのカスタマイズができる魅力はあるものの、面倒さが多く敷居が高いのがデメリットです。QuUnは、機器とサービスをセットで提供しているのに加え、国内で開発しているため国内の家電機器の多くに対応していることから、設定にあまり手間をかける必要なく簡単にスマートホームが利用できる点はメリットといえるでしょう。
しかしながら、簡単さにこだわるが故か、先にも触れた通りWPS非対応のルーターに対応していないなど、融通が利かない部分もあるように感じます。ボイスが変更できるなど独自の魅力を備えているサービスだけに、今後より幅広い利用シーンに対応できるための改善を進めてほしいところです。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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