大日本印刷、日産自動車、ゼンリン、ソフトバンク、クワハラの5 社は、車での移動中に、快適な環境でウェブ 会議ができる「移動会議室」の実証実験の第2弾を2022年2月開始した。
前年6月に実施された第1弾に続くもので、その目的は有償サービスを含めた商業化への検証を行うことにある。今回はその実用度を体験してみることにした。
ビジネスの世界では、業務時間の効率化やワークバランスが声高に叫ばれて久しい。そうした中で世界中を巻き込んだコロナ禍はその考え方をいっそう加速させることとなった。
その中心にあるのはインターネットであり、スマートフォンなどモバイル機器の普及だ。結果、多くのビジネスマンは場所の制約から解放され、仕事に対する自由度を大きく高めることにつながった。
しかし、場所の制約から解放されたとは言っても、まったく制約を受けなくなったわけではない。スマートフォンでは画面の小ささゆえに資料が見にくかったり、複数が相手となれば互いの表情もよく見えなかったり、ということもある。
加えて重要な会議であれば、秘匿(ひとく)性を踏まえた配慮も必要になる。たとえばタクシーなどを使った移動中であれば、ドライバーへ会議内容が聞こえないよう音声を気遣う必要もあるし、さらに目的地に到着すれば会議を中断せざるを得ないこともある。
そうした状況を踏まえ、ハイヤーのような快適性と自由な移動、さらには秘匿性を備えた「移動会議室」サービスとしての事業化ができるのではないか。そんなアイデアの下でこの実証実験はスタートしたという。
実証実験で使用した車両は第1弾より、快適性を求めるために日産「エルグランド VIP」を使用。
このクルマは前席2席+後席2席というぜいたくな4人乗り仕様で、特に後席はリビングに置かれるような高級本革を採用したオットマン付パワーシートが採用され、まるでファーストクラスのような広さと快適さが味わえる。
この仕様では前席と後席を区切る低床キャビネットも特徴の一つだが、今回の実験用では32インチ大型モニターを取り付けられる隔壁を組み合わせた。
この隔壁には会議専用のカメラ/スピーカー/マイクを組み込み、同時に前席との遮音性を高める効果も狙っている。また、ウェブ会議用の通信ネットワークはソフトバンクの5G/4Gを使い、安定した回線環境を実現している。
一方、前席との遮音性を高めたことによって、当然ながらドライバーとのコミュニケーションは取れなくなる。そこで実証実験では「コミュニケーションツール」と呼ばれるタブレットが設置された。
ここにはドライバーに対して降車や利用時間の延長などのリクエストが行える専用アプリがインストールされ、ドライバーとは基本、SMSのようなテキストベースでのやり取りが可能となる。必要なときは通話もできる。このツールの開発は大日本印刷が行った。
また、隔壁を設置したことで後席からは前方が見通せなくなり、現在地がわかりにくい状況が生まれる。そこで現在地がどの辺りなのかを示すツールとしてゼンリンMaps APIを組み込んだ。
これにより、「現在地を表示する」アイコンをタップするとタブレット上には現在地を示す地図が表示される。ただ、地図は決して見やすいとは言えず、現在地も地図上に「+」を表示するだけでわかりにくい。今後はこの改良も必要だろう。
では実証実験の第2弾では何が違うのか。大きく違うのが、実証実験のエリア拡大と有償サービスの実施だ。
発表資料によれば、実証実験の第1弾では約3か月間で112トリップが利用し、アンケートでは9割の人が満足との回答があったという。この反応から第2弾では、それが本当にビジネスとして成り立つのかを検証する目的で、1回の利用ごとに2時間または30kmまで2万円の利用料を設定した。
さらに延長への対応も考慮しているようだが、具体的な延長料金はまだ確定していないとのことだった。
利用にあたってはモニター接続するPCやタブレットなどは自前の持ち込みが必要だが、車内にはWi-Fiによるネット回線が利用でき、これは利用料金内に含まれる。また、申し込みは車両を運行するクワハラが受け付ける。
実証実験の期間は同年9月までの約7か月間。その間は24時間・年中無休で対応するが、毎週日曜日の22時00分~翌朝6時00分はメンテナンスのために休止となる。
今回の体験は、この移動会議室についてプレゼンを受ける形を取ったが、その印象は想像以上に良好だった。
エルグランドVIP 2列シートがもたらす余裕のあるシートサイズは快適な乗り心地を生み出し、大型ミニバンの後部を2席だけで使う余裕あるスペースが実にぜいたくな環境をもたらしていたのだ。
モニターに映し出される映像は鮮明で、資料がしっかり読めたのはもちろん、会議に参加していたメンバーの表情までもしっかりと映し出していた。32インチの画面を見ることで車酔いへの不安もあったが、個人的にはそれを感じることはなかった。
これをビジネス用途でなら利用者もそこそこ獲得できるのはないかと思ったが、実は課題となっているのが週末なのだそう。ビジネス用途にターゲットを絞ると、当然ながら週末は稼働率が下がってしまう。
そこで第2弾では、利用ターゲットを個人ベースにも広げ、たとえば観光案内や婚礼などのサプライズ用途として、あるいは不動産物件の紹介で活用するといった方法も想定しているのだという。
たとえば、通信回線の活用や詳細な地図データとのリンクを実行することで遠隔での観光ガイドも可能となるだろうし、不動産の物件紹介では顧客を現地に連れて行く間に概要説明もできる。
婚礼用としては広い空間を生かして、衣装などを気にすることなくゆったりと寛ぎながら時間を過ごすこともできそうだ。また、プレゼンでは仮に各空港周辺でサービスを展開すれば、出張先での移動中でも会議ができるようになり、ここでの需要も見込めるのではないか、との意見も出た。
今回の実験ではこうしたさまざまなトライアルを繰り返すことでサービスとしての完成度を高めていく予定で、それこそが今回の大きな目的である。それらを踏まえた上で車内空間や空間を構成する主要機能に改良を加え、参加5社は2023年以降の商業化を目指すことにしている。
快適な環境下で移動しながらウェブ会議ができる日も近づいているようだ。
ナビゲーションリスト
日産など5社、実証実験の第2弾 「車内でウェブ会議」の課題とは 2列シートに大型液晶モニター 2時間 or 30kmで2万円に設定 乗車体験、車酔いは大丈夫? ビジネス以外のシーンに拡大もカテゴリー
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