10日発表された9代目となる新型スズキ『アルト』。アルトは42年前の1979年に「47万円」という当時でも破格の値段で軽自動車業界の勢力を塗り替えた車種だ。国内でも累計販売台数は500万台を超え、スズキの主力モデルのひとつだ。
新型アルトの特徴は、新型エンジン(R06D)とCVTの組み合わせによる低燃費性能。さらにマイルドハイブリッドモデルが追加され、27.7km/L(WLTC)の燃費を実現したこと(エネチャージモデルは25.2km/L)。また、全車種に「スズキセーフティサポート」が搭載され、このクラスでは珍しいヘッドアップディスプレイも採用された。SRSエアバッグはサイド、フロントシート、カーテンなど6つがすべての車種に標準装備となる。ディスプレイオーディオが選べるようになり、7インチのディスプレイは、Android Auto、CarPlayなどスマホ連携の他、バックカメラ、フロントカメラや全方位モニターのディスプレイにもなる。
記者発表(オンライン)の質疑応答で鈴木俊宏代表取締役社長は、歴代アルトについても触れながら、軽自動車は「元来燃費性能やLCAもよく、人々の日々の暮らしを支える下駄のような存在」と語る。発売当時の47万円という価格はそれを端的に表していた。
今回発表となった9代目で新型のアルトは、エネチャージ搭載の普及グレード(A、L)とマイルドハイブリッド(HYBRID S、HYBRID X)が用意された。もっとも廉価なのは94万3800円のAグレード。高性能化・豪華装備化が進む軽自動車において100万円を切る値段設定は、普段履きに使う「下駄」としての機能を十分に果たしているといえるだろう。
この価格について鈴木社長は「1979年から2021年の物価上昇、法規制や必要な安全装備を考えると94万円くらいは妥当ではないか」との認識を示した。もちろん他社軽自動車でも商用グレードで100万円以下のものは存在する。
しかし、それらは装備類や安全支援装置は最小限でオプション設定となる場合が多い。1979年当時のアルトも、最廉価モデルはエアコンレス、パワステレス、窓も「かき氷」ハンドルで開閉するものだった。若い人には「かき氷ハンドル」が通じないかもしれないがが、ようは窓の開閉は手動で行っていた。
そう考えると、この40年で価格が2倍というのも頷ける。1980年の日本の名目GDPは約255兆円。2020年は約538兆円。およそ2.1倍だ。エアバッグや高度運転支援システム(ADAS)の標準装備を考えると確かに鈴木社長の言葉は正しいといえる。それでもやはり100万円の軽自動車は高いと考えるなら、それはおそらくクルマの値段が高くなったのではなく、我々が貧しくなったのだ。
市場や消費者の声、競争原理が産業や技術を強化する側面は否定しないが、追加の装備や機能に対価が必要なのは当然である。その部分を競争原理や企業努力だけに負わせて相殺しようとしても限界がある。そろそろ消費者側も意識を改める必要があるのかもしれない。
★レスポンス読者アンケート!!カテゴリー
関連記事
ホット記事