NTT西日本のインターネット光回線サービスで5月中旬、顧客管理システムのトラブルが発生し、累計6万件の設置工事が遅延、4カ月たった今も約2万件が遅れている。生活インフラといえるネット回線利用が数万件単位で長期にわたって影響を受けるのは異例という。西日本新聞「あなたの特命取材班」に相次いで寄せられた声をきっかけに判明した。
工事の遅延で、契約者はネットや電話が使えず、日常生活に大きな影響が出ている。申し込みから半年以上たっても工事が行われていないケースもあるという。
NTT西によると、トラブルは5月、契約者の工事希望日や住所などを入力する「工事受け付けシステム」の更新時に発生。更新前に電話番号の表記などを統一する作業が徹底されず、約6万3千件のデータが移行できなかった。
このシステムは、顧客のサービス利用状況など複数の管理システムと接続しており、システム間の連携設定にも不具合が判明。修正作業に約2カ月を要し、滞った工事が本格的に再開したのは7月以降という。
トラブルの影響が続く中、NTT西は6月8日に新規工事の受け付けを再開。処理案件が増えたことで、さらに工事が延期される事例が続出。今も設置工事が決まっていないのは新規受け付け分も含め、約2万件に上っている。
総務省によると、電気通信事業法の施行規則は「2時間以上、利用者数3万人以上」に影響する通信障害などを「重大な事故」と定める。今回のトラブルは、こうした規定に相当する多大な影響が出たが、同省は「通信設備トラブルではないため該当しない」とする。
NTT西は「ご迷惑をお掛けし、深くおわびする」と謝罪。ただ、受け付け再開が混乱を大きくしたとの指摘には「経営判断だった」との説明にとどめる。
通信技術に詳しい九州大の岡村耕二教授は「在宅勤務などの普及で光回線需要が急増する中、新規利用が滞るトラブルは社会インフラを担う企業として信用を落とす。早期解決に加え、原因を徹底調査し、再発防止策を公表すべきだ」と指摘している。
「ネット環境は生活の重要インフラなのに」新型コロナウイルス禍で在宅勤務やオンライン授業などが広がり、光回線の需要が増す中で起きたNTT西日本のシステムトラブル。契約者の生活に大きな支障が生じたが、影響が及んだ連携事業者を含めて対応は不十分で、「あなたの特命取材班」には「ネット環境は生活の重要インフラ。総務省は厳しく指導すべきだ」との批判や不満が相次いだ。
取材班に寄せられた関連情報は10件。このうち、NTTドコモが連携事業者としてNTT西の回線を使う「ドコモ光」の契約者が7件に上った。
福岡市の会社員の50代男性は3月、自宅の新築に伴い、利用中だった「ドコモ光」の移設工事を申し込んだ。工事日程が確定しないまま、5月のトラブルに巻き込まれた。契約先のドコモに工事見通しを問い合わせると「工事日程はNTT西日本次第」、NTT西には「契約相手のドコモに連絡して」と言われるだけ。何度連絡しても回答は同じだった。
この間、無線通信機器を自腹で借りてしのいだが、容量が足りずにピアノ講師の妻のオンラインレッスンは断念。大学生の息子もオンライン授業を円滑に受けられなかった。待ちきれずに8月、他社に乗り換えた。男性は「とても責任ある事業者の対応とは思えなかった」と憤る。
NTT西は取材に「トラブル前に工事日が未定だった人は(ドコモなどの)連携事業者の対応だ」。ドコモ側は「NTT西日本とは日々連携していたが、お客さまへの説明が一部不十分だった可能性がある」と釈明している。
(水山真人)
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