米アップルとアマゾン・ドット・コムが突如として、高音質の音楽配信サービスで競い始めた。有料会員数で業界トップのスポティファイ・テクノロジーも同様のサービスを準備していると報じられている。この市場で利用者獲得やつなぎ留めに向けた動きが激しくなりそうだ。
アップルは2021年5月17日、有料音楽配信サービス「Apple Music」で高音質のロスレスオーディオ形式と、米ドルビーラボラトリーズの「Dolby Atmos」形式の空間オーディオの楽曲を配信すると明らかにした。
21年6月8日から、同サービスで配信している7500万曲以上の全楽曲をロスレスオーディオで、数千曲を空間オーディオで提供している。追加料金は取らない。
ロスレスのレベルは16ビット/44.1kHzのCD品質から最大24ビット/48kHzまで。iPhoneの「設定」で「オーディオの品質」をオンにしてレベルを選択する。また、外部装置を使用すれば、最大24ビット/192kHzのハイレゾロスレスも再生できるとしている。
一方、空間オーディオの楽曲は、H1チップやW1チップを搭載したAirPodsとBeatsのヘッドフォン、またはスマートフォン「iPhone」やタブレット端末「iPad」、パソコン「Mac」の最新機種の内蔵スピーカーで自動的に再生する。対応楽曲は順次増やしていくとしている。
AirPodsの第2世代とAirPods Pro(いずれも19年発売)はH1チップを、AirPods第1世代(17年発売)はW1チップを搭載。AirPods Max(20年発売)はH1チップ搭載している。
アップルの発表を受け、アマゾンがさっそく対抗策を打ち出した。アップルの発表と同じ日、有料音楽配信サービス「Amazon Music Unlimited」の加入者に対し、追加料金なしで高音質サービス「Amazon Music HD」を提供すると明らかにした。
米国やカナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの加入者は5月17日から無料で高音質版にアップグレードできるようになった。
Amazon Music HDはそれまで、月14.99米ドルの通常料金(日本では1980円)と、月12.99米ドルのプライム会員向け料金(日本では1780円)を設定。標準音質版の5ドル増しで提供していた。これを対象国では9.99ドル(プライム会員は7.99ドル)で利用できるようにした。
高音質サービスはアマゾンが先行している。同社がAmazon Music HDを開始したのは19年9月。20年10月には数千の楽曲・アルバムをデジタルリマスターして、高音質楽曲を拡充すると発表した。
アマゾンでは現在、約7000万曲のロスレス楽曲(16ビット/44.1kHz)と、同社がウルトラHDと呼ぶCD品質よりも高い、最大24ビット/192kHzの楽曲約700万曲を提供している。一部の楽曲はDolby Atmosやソニーの「360 Reality Audio」形式にリマスターし、3Dオーディオ(空間オーディオ)で配信している。
米メディアによると、音楽配信最大手のスポティファイも高音質版を準備中。月20ドルという割増し料金で提供する見通しだが、今回のアップルとアマゾンの動きを受け、料金の据え置きを余儀なくされそうだと報じている。
コロナ禍を背景にポッドキャスト(音声番組)の人気が高まっており、こちらもアップルやスポティファイ、アマゾンの間で競争が激化している。
アップルは21年4月20日、「アップルポッドキャスト」でサブスクリプション(継続課金)を開始すると明らかにした。21年5月から世界170カ国・地域で順次提供を始めた。アップルはサブスクリプションを展開する配信企業から年間19.99ドル(約2200円)を受け取り、初年に課金収益の30%を、2年目以降に同15%を徴収する。
ポッドキャストはアップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」と「ブロードキャスト」を組み合わせた造語。その名の由来通り、何年もの間この市場で先行していたのはアップルだ。
しかし、後発のスポティファイが企業買収したり、バラク・オバマ元米大統やヘンリー英王子などの著名人と契約したりして追い上げている。スポティファイは21年4月、米国でポッドキャストのサブスクリプション開始し、アップルに対抗した。
アマゾンがAmazon Music内でポッドキャストを開始したのは20年9月。20年12月にはポッドキャスト配信の米スタートアップ企業、ワンダリーを買収すると発表。ワンダリーは音声ドラマの制作に力を入れている企業で、犯罪ドキュメンタリー「ドクター・デス」などの人気番組を持つ。アマゾンはワンダリーの番組をAmazon Musicに取り込み、コンテンツ強化を狙う。
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