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2017/08/02(水) 10:15 配信
オリジナル医師と患者が遠く離れていても、スマートフォンやタブレット、パソコンなどを活用し、診療ができる――。そんな「遠隔診療」が身近になってきた。医師不足が深刻な過疎地域だけでなく、最近は都会でも広がっている。忙しいビジネスパーソン向けの禁煙外来だったり、小児科にかかる親子が利用したり。患者にとっては、通院の負担や待ち時間などを減らすことができ、医師にも大きな利点があるという。「利点×利点」は本当なのだろうか。医療の現場を訪ねた。( 特集編集部)
福島県南相馬市の市立小高病院は、2011年3月の東日本大震災後、医療スタッフ不足に陥り、医療活動を継続できるかどうか、深刻な事態に直面した。3年前から外来を再開したものの、事態は大きく改善したわけではない。その中で、今年5月から導入した「遠隔診療」は大きな助けになりつつある。
看護師の訪問とタブレット端末。その組み合わせで診療を始めたという。いったい、どんな診療なのか。まずはこの動画(約8分)をじっくり見てほしい。冒頭、92歳になる加藤トメノさんが登場し、タブレットを通じて医師と会話する場面が出てくる。どんなやり取りが行われているのだろう。
取材に訪れた6月初旬、加藤さんはタブレット端末を通じ、はきはきと医師の問診に答えていた。とても90歳過ぎとは思えない。「調子はいかがですか」という医師の問いに、「元気でーす」と力強く応答。笑顔もあった。
タブレットの向こうにいるのは小高病院の藤井宏二医師(62)だ。遠隔診療の導入に積極的に動き、「画期的な方法になり得る」と手応えを感じている。画面で向き合い、顔と顔を突き合わせる。目をそらしてよそ見すると、その様子も相手に分かってしまう。だから、医師としての心構えを問い直す機会にもなっているという。
新六本木クリニックは、六本木ヒルズの近くにある。文字通り、大都会のど真ん中だ。精神科と心療内科、内科を持つこの病院でも「遠隔診療」に乗り出しているという。来田誠院長(37)によると、対象はうつ病の診療や禁煙外来など。仕事に忙しく、なかなか来院できないビジネスパーソン向けだ。
予約は、スマートフォンやタブレットの画面で完了する。予約の時間に医師はクリニックで待機。患者はテレビ電話の機能を利用し、診察を受ける。支払いはクレジットカード。そこにはもう、「通院」の概念はない。
来田院長は言う。
「治療に対してモチベーションを持ちにくい人たちに、治療を受け続けてもらう。そういったことができるんじゃないかと思います。それが遠隔診療の役目・役割です」
多くの場合、禁煙外来の患者は途中で来院をやめ、治療を挫折するという。しかし、来田院長によると、このクリニックでは禁煙外来の患者はほとんどが遠隔診療を利用し、4回のプログラム全てを受ける人が8割前後になるという。「これ(遠隔診療)があるから続けられたという患者の声も多いし、8割前後はかなり高い数字だと思っています」。精神科の患者も2〜3割が遠隔診療だ。
「診察室においでになる患者さんの顔と、(遠隔診療を使って)家で診療を受けている患者さんの顔は、やっぱり違います」。病院で対面する場合と違い、普段の様子や素顔が見えやすい。それが遠隔診療の利点だという。「聴診や触診ができない代わりに、新しい診療情報も手に入りますから」
遠隔診療は少し前まで、離島やへき地が中心だった。都会などにも広がったのは、厚生労働省が2015年に出した「事務連絡」文書がきっかけだ。「都市部在住の多忙なビジネスパーソンで花粉症を患っている患者に対してもオンライン診療を提供できる」などという内容で、それ以降、オンライン予約やクレジットカード決済といった遠隔診療のプラットフォームを提供する企業の参入も相次いでいる。
遠隔診療向けアプリの開発・販売などを手掛ける企業は10社ほどとされる。 特集編集部がそのうちの主要4社に取材したところ、4社だけで提供先の医療機関は約900に上った。東京大学医学部発の医療ベンチャー企業・MRT(東京都)は「関東地方を中心に約350の医療機関が導入している」と言う。この業界で最大手のメドレー(東京都)は「この6月で導入医療機関は500を超えました」と話す。
そして、こうした波は、子育てに忙しい親たちの味方にもなりつつある。
東京都中野区の岩井玲さん(33)、柚(ゆず)ちゃん(2)親子は、スマートフォンを利用して小児科の医師に医療相談に応じてもらう。なぜ、オンラインの医療相談なのだろう。
「(実際に)病院に行っちゃうと…」と岩井さんは言う。「(熱があっても)お薬をいただきに行くだけになって、いろんなことを相談できずに帰ることがほとんどです。けれど、小児科オンラインの場合は、お答えをいろいろいただけるので」
オンライン相談の相手は小児科の橋本直也医師(32)だ。東京都千代田区に拠点を置く「小児科オンライン」に所属している。ホームページの開設は昨年5月。スマートフォンのテレビ電話機能を使って遠隔医療相談を始めて日は浅いが、手応えを感じているという。
橋本医師は言う。
「小児科って混むので、(患者が)1日100人来たら、1人2〜3分で診療していきます」。子育て中の親はいつも子どもの健康を心配しているのに、そんな診療でいいのかどうか。とりわけ、初めての子どもを育てている場合、軽い症状であっても小児科に飛んでくる親は多い。こうした状況を変えたいとの思いもあった。
小児科オンラインは月会費3980円の会員制サービスで、現在は約30人の小児科医が登録している。会員になれば、1回10分の相談が何度でも可能。利用者は全国各地に広がり、米国やブラジルなど海外からの利用もある。
「手軽な接点を持つことは、お母さんの不安や子どもの健康に関する疑問を引き出すいいチャンネルにもなります」と橋本医師。忙しすぎて、まともに子どもの診察ができず、結果として母親らの不安解消ができていないのではないか―。小児科医として抱いていたそんなわだかまりに対しても、解決の糸口になるかもしれない。
橋本医師はそんなことも感じているという。
最後にもう一つの実例を紹介しよう。千葉県いすみ市。そこで開業する「外房こどもクリニック」の周囲半径15キロには、他の小児科専門施設がないという。典型的な小児医療の過疎地域だ。
この小児科では、1年ほど前に遠隔診療を導入した。黒木春郎院長(60)は「(遠隔診療システムを提供する企業から)オンライン診療の案内がありまして、これは地域医療の形を大きく変える、と。直感で思いました」と明かす。
「爆発的ではありませんが、(利用者は)確実に増えています。これまで100人くらいの患者がおり、オンラインと通常の診療を交互にしながら、月に20人くらいを診ています」
これまでの遠隔診療は、いまの医療保険制度下では通常の対面診療よりも報酬が低く、割合を増やせば増やすほど、医療機関側の減収になる可能性があった。黒木院長も「現状は病院側の持ち出し。この制度のままでは普及しにくいでしょう」と話す。
ただ、環境は少しずつ、整い始めている。この6月上旬には「未来投資戦略2017」が閣議決定され、遠隔診療についても次期の診療報酬改定で評価する、とされた。実態を後追いする形で、制度も整う流れになっている。
都会でも郡部でも遠隔診療は進む―。その流れは医療の姿をどこまで変えていくのだろうか。例えば、冒頭で紹介した小高病院の藤井医師。その思いは熱い。
「東京にいても小高の患者の相談くらい乗れる。看護師、介護士、医師が医療データを共有でき、その連携の中に遠隔診療を取り入れれば、進歩的で友好的な訪問診療、訪問介護ができるでしょう。それを小高スタイルと名付けたい。すごく画期的な方法になり得る。その素地があると思いますね」
[制作協力]オルタスジャパン[写真]撮影:子安充雄、オルタスジャパン
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東日本大震災の被災地で タブレットで診療 92歳女性も抵抗なく 東京・六本木のクリニックでも 遠隔診療、各地で拡大中 子育て中の親たちも 小児医療の過疎地 千葉県いすみ市で 「遠隔」は医療過疎を救うかカテゴリー
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