現在のトヨタ自動車の社長である豊田章男氏の曾祖父にあたる豊田佐吉氏は、1890年に豊田式木製人力織機を発明し特許を取得。発明に没頭、苦労しつつも豊田紡織を立ち上げるなどトヨタグループの基礎を築き上げます。
佐吉氏の長男である喜一郎氏は豊田紡織に入社します。喜一郎氏は1926年に設立された豊田自動織機製作所の常務となります。
1933年には豊田自動織機製作所内に自動車製作部門を設置、1935年には第一号車となるトヨダAA型乗用車を製造。1937年に自動車製作部門がトヨタ自動車工業となります。
1938年には挙母工場(現本社工場)を設立するも、1939年には第二次世界大戦に突入してしまいます。終戦前日の1945年8月14日には空襲によって挙母工場の約4分の1が破壊されてしまいます。
同年9月にはGHQがトラックの製造を許可、12月には民需転換の許可を得ます。1947年には戦後初の新設計車であるトヨペットSA型を製造、1955年には純国産車であるトヨペット・クラウンの製造を開始します。
少し時代が前後しますが、トヨタ自動車工業は1940年代に経営危機を迎えています。
この危機を脱するための最大の方策が、販売部門の分離でした。1950年にはトヨタ自動車販売を設立、1982年にトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売株式会社が合併して現在のトヨタ自動車になるまで、製造部門と販売部門は別会社だったのです。
1950年には1万2000台に届かなかったグローバル生産台数が、1959年には10万台超え、1961年には20万台超え、1968年には100万台超えと台数を伸ばし、衰えることなく2007年には850万台超となります。
この生産台数はトヨタ自動車のもので、協力企業で生産される車両も存在するため販売台数はさらに多くなります。現在、トヨタのグローバル販売台数は1000万台超で、2020年、2021年と2年連続で世界最多となっています。
ノアとヴォクシーの名前がトヨタ車のラインアップに登場するのは、1996年に登場したライトエースノア&タウンエースノアからです。
その歴史をたどると、1968年11月に登場するキャブーバー型乗用1ボックスのミニエースコーチというクルマにたどりつきます。ミニエースは、1967年に登場したトラックからその歴史が始まります。1968年10月には、ハイエースの乗用モデルであるハイエースワゴンが登場します。ミニエースはハイエースの小型バージョンとして、1968年11月に市場投入されるのです。
ミニエースは1975年まで製造されますが、1970年にはミニエースとハイエースの間に位置するモデルしてライトエースが追加されます。ミニエースの販売が終了すると、ライトエースはミニエースの役割を担うことになります。そこで、今度はライトエースとハイエースの間を埋めるモデルとして、1976年にタウンエースが登場します。
ライトエースは1979年に2代目、1986年に3代目が登場します。一方のタウンエースは1982年に2代目へと移行します。じつは、この小型のエース系にはもう1台、マスターエースサーフというモデルがあります。当時のトヨタ店ではライトエースもタウンエースも扱えなかったため、トヨタ店で販売できる小型1ボックスカーとして設定されたのがマスターエースサーフだったのです。マスターエースサーフの内容は、タウンエースとほぼ同じでした。マスターエースサーフは1982年~1992年まで販売されます。
1992年にマスターエースサーフは消滅しますが、ライトエースとタウンエースは販売が継続されます。そして、1996年にライトエースとタウンエースが同時にフルモデルチェンジとなり、それぞれライトエースノア、タウンエースノアという車名に変更されます。ライトエース&タウンエース時代はキャブーバーだったボディは、セミキャブオーバーに変更されます。
ライトエースノアとタウンエースノアは2001年にフルモデルチェンジされ、ライトエースノアはヴォクシーに、タウンエースノアはノアに車名変更されます。このタイミングで基本の駆動方式はFFとなります。ヴォクシーはスポーティ系、ノアはファミリー系という路線が敷かれました。ヴォクシー、ノアともに2007年に2代目に、2014年1月に3代目にフルモデルチェンジされます。2014年10月には3車種目となるエスクァイアを追加、マスターエースサーフが存在した時代以来の3兄弟体制となりました。
当初は販売チャネルによってヴォクシー、ノア、エスクァイアを扱う店舗が設定されていましたが、2020年の5月からはトヨタ系の販売店は全車取扱に変更されました。このため、2022年のフルモデルチェンジを前にヴォクシーとエスクァイアが廃止となり、ノアに統一されるのではないか?との噂も流れましたが、フルモデルチェンジで廃止となったのはエスクァイアのみで、ヴォクシーとノアはそれぞれ継続されることになりました。
新しいノア&ヴォクシーは、TNGA系のGA-Cと呼ばれるプラットフォームが採用されました。ホイールベースは先代と同様で2850mm、トレッドは先代モデルの標準(5ナンバー)が前後1480mmであったのに対し、新型はフロントが1500mm、リヤが1515mmとなります。
搭載されるパワーユニットは2リットルのガソリンエンジンと1.8リットルガソリンエンジン+モーターのハイブリッドの2種で、駆動方式はFFと4WDの2タイプとなります。ガソリンエンジンのスペックは170馬力/202Nm。
ハイブリッドはエンジンが98馬力/142Nmで、フロントモーターが95馬力/185Nm、4WDのリヤモーターは41馬力/84Nmです。ハイブリッド用のバッテリーは、従来のニッケル水素からリチウムイオンとなりました。
シート配列は前から2-3-3名の8名定員と、2-2-3名の7名定員の2種。かつて存在した2列シートモデルは設定されません。サードシートは従来どおり2分割して左右に折りたたむ方式ですが、従来のようにストラップで固定するのではなく、壁面に押しつけるだけで固定が可能。
マニュアルタイプのリヤハッチも作動範囲の途中で停止可能。乗車時にせり出すステップを電動でなく機械式とすることで3万3000円という安価で装着可能にするなど、使い勝手の面も大きく進化しています。
デザインのテーマは「ENERGETIC BOLD」で、「室内空間の最大化」と「動感」を融合させることで、「堂々・躍動的な力強いハコ」スタイルを追求し、お客様の安心と所有する喜びを提供、となっています。
すでにノア&ヴォクシーは、市場で認知されているクルマであり、ノアならこの雰囲気、ヴォクシーならこんな感じというデザイン上のイメージは出来上がっています。すなわち、ノアは和気あいあいとしたファミリーミニバン、ヴォクシーはファミリーミニバンでありながらアグレッシブなテイストをプラスしたモデルというものです。
今回のフルモデルチェンジでも、その方向性は維持されました。ノアの標準モデルは太い横バー基調のメッキグリルに16インチタイヤ、ノアのエアロモデルは少し力強さを与えるためにメッキをダーク調に変更し、17インチタイヤも用意しています。ヴォクシーは正面と両サイドを分割するグリルデザインで、これは先代から共通するものです。先代では両サイドも横基調のデザインでしたが、新型ではメッシュを用いています。このメッシュ部分、なにやらちょっとレクサス風でもあり、かなり高級感をねらったものに感じます。エスクァイアが廃止となり、エスクァイアの要素はヴォクシーに吸収されたのだろうな……と感じさせるものがあります。
インテリアは奇をてらうことなく、スッキリしたものです。インパネも、曲面を使いながらもフラットさを大切にした形状を採用。メーターはステアリングの奥のしっかりとしたカバー内に収められます。液晶モニターはビルトインされず、センター付近に据え置かれます。
基本的なパッケージングは先代と変わっていませんが、プラットフォームをTNGA系に変更したことで、その完成度は高くなっています。使われたプラットフォームはGA-Cと呼ばれるもので、プリウスやC-HR、カローラなどにも使われるものです。
フロントセクションにパワーユニットを配置し、その後方に乗員が乗車するFFタイプのミニバンで、シート配列は3列となります。ミニバン系で大切となるのは2列目、3列目のシートアクションだと言えるでしょう。
まず3列目ですが、収納は5対5の分割で左右に跳ね上げるタイプです。跳ね上げたシートは押し込むだけで固定できます。
2列目は3名が乗車可能なベンチタイプと、2名乗車のセパレートタイプの2種があります。どちらも超ロングスライドという前後に長い距離が動かせる方式ですが、新型ではワンアクションでロングスライドが可能になりました。
さらに、セカンドシートの3名分のベンチを2名分のベンチに交換する「ユーティリティパッケージ」というオプションも用意されます。これは、セカンドシートを動かすことなくサードシートに乗り込むことを可能したもので、昔の1ボックスワゴンになどにあった、跳ね上げ式補助席を持つセカンドシートから補助席を取り外したようなものとなります。
試乗することができたのは、ハイブリッドのFF、ハイブリッドの4WD、ガソリンエンジン仕様のFFの3タイプ。ガソリンエンジンでFFという組み合わせは一番リーズナブルなものですが、このタイプでも大きな不満はありません。ハイブリッドと比べると若干トルクが細く感じますが、不満が現れるほどではないでしょう。一方、ハイブリッドのFFは全体的にトルク感がアップしていて、坂道発進の首都高ランプなどでは余裕のある合流が可能でした。
ハイブリッドの魅力は、減速時にエネルギー回生させることで燃費を向上できる点です。ノア&ヴォクシーについてもこれは同じで、下り坂などでは単純にアクセルペダルを戻しているだけでなく、「あぁ、使ったエネルギー回収しているなぁ」という感覚があり、エネルギーを無駄にしていないことが実感できるのがいいところです。
走りのフィールという点でもっともよかったのが、ハイブリッドの4WDです。ハイブリッドの4WDはリヤのモーターがしっかりと働いている印象で、コーナリング時のトレース性能が人間の感覚に合っているのです。最近のトヨタはリヤモーターの使い方がとても上手で、E-Fourと呼ばれるクルマは、乗って気持ちいいという印象を受けることが多くなってきています。
ADAS(先進運転支援システム)は、基本的な装備は全車フル装備と考えていいでしょう。歩行者や自転車が飛び出してくるかも知れない状況を予測して知らせるプロアクティブドライビングアシスト(PDA)も、トヨタ車として初採用、全車に標準装備となり、より安全性が向上されています。長距離ドライブでの安心機能、アダプティブクルーズコントロール(ACC)も重要な装備です。ノア&ヴォクシーは全車にACCが標準で装備となります。
ボトムグレードのXを除いて、トヨタチームメイトと呼ばれる支援機構がオプションで装備可能です。トヨタチームメイトには、アドバンストパーク+パーキングサポートブレーキ(周囲静止物)とアドバンストドライブが含まれます。このうちハイブリッド車のアドバンストパークは、スマートフォンにアプリをインストールすることでリモート操作が可能なもの。
アドバンストドライブは、高速道路や自動車専用道路での渋滞時(40km/h以下)に手放し運転が可能となるほか、停車後の自動再発進が約3分以内と長くなったほか、急病などでドライバーに異常が発生した際には、ハザードランプの点滅やホーンの発音などをしたうえで自動停止、ヘルプネットへの緊急連絡などを行うものです。
今回の試乗車にもトヨタチームメイトは搭載されていましたが、アドバンストドライブについてはまだ使うことはできませんでした。アドバンストドライブの運用は2月中旬以降となっていて、2月中旬以降に工場出荷されたクルマは標準搭載、それ以前に出荷されたクルマについてはシステムアップデートで使えるようになります。
ノアのラインアップはボトムからX、G、Z、S-G、S-Zの5グレード展開です。ヴォクシーは上位2グレード、つまり、S-G、S-Zの2グレード展開。シート配列は多くのグレードで7名と8名がありますが、ZグレードとS-Zグレードは7名定員モデルのみ、そしてハイブリッドの4WDは7名定員モデルのみで、8名定員モデルは設定されません。8名定員(セカンドベンチシート仕様)と7名定員(セカンドセパレートシート仕様)は同価格で、3名分のセカンドベンチを2名分のベンチに交換する「ユーティリティパッケージ」を選ぶと2万2000円マイナスとなります。
同一グレードの仕様違いの価格差は次のようになります。
・ヴォクシーはノアに比べて5万高、ただしS-Zは7万円高・2.0ガソリンの4WDは2.0ガソリンFFに比べて19万8000円高・1.8ハイブリッドの4WDは1.8ハイブリッドFFに比べて22万円高・1.8ハイブリッドFFは2.0ガソリンFFに比べて35万円高・1.8ハイブリッド4WDは2.0ガソリン4WDに比べて37万2000円高、ただしXは40万2000円高
ミドルサイズのミニバンに求められるものは、6~7人が乗車でき、シートを格納することで乗車人数調整しつつ荷物の搭載量をアップできること。これがもっとも重要なこととなります。この絶対条件を満たしつつ、その時代ごとに求められる性能をプラスするという歴史を繰り返しています。
かつて、1ボックスカーの命はルーフバリエーションと言われたこともあり、この時代はさまざまなタイプのガラスルーフが考案されました。またある時代は、サロンバスのように回転対座シートがもてはやされたり、フルラットになって車中泊できることをウリにした時代もありました。
現在はといえば、じつに直球勝負となっています。快適に広々と乗車でき、シートバリエーションは対面対座やフルフラットではなく、荷物の形状に合わせて変更できることを重視、運転に負担を掛けず、燃費もいい…。本来のクルマというモビリティに求められる性能をいかに極められるか?にかかっています。
ノア&ヴォクシーはそうした根幹の部分を、奇をてらうことなくしっかりと追求したクルマに仕上がっていました。新型ノア&ヴォクシー、使い込むほどに魅力を増していきそうな印象でした。
(文:諸星 陽一/写真:諸星 陽一、トヨタ自動車)
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