採用マーケットが目まぐるしく変化しており、「従来の手法が通じなくなり、人材不足に悩んでいる」という人事担当の方は多いのではないでしょうか。
採用手法の多様化、就職活動の早期化などによって、従来の「応募の獲得ー選考ー採用ー内定ー入社」というフローだけでは優秀な人材に出会いにくくなっています。理想の人材に出会って振り向いてもらうには、採用にマーケティングの考え方を取り込み、自社のファンを一人でも多く作り出す手法も考えられます。
本記事では「採用マーケティング」を取り入れようとされている方に向けて、採用マーケティングの基本的な考え方と、自社で実践できるステップを解説します。
「応募は集まるものの、自社にマッチする人材が採用できない…」 「採用後の離職率の高さを改善したい…」これらのお悩みをお持ちの方向け◆効率的な採用活動を実現するためのターゲット設計5ステップ◆
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採用マーケティングとは、採用活動にマーケティングのフレームワークを取り入れた考え方のことです。「求職者に自社のファンになってもらうための仕組みづくり」とも言い換えられます。
採用マーケティングでは、入社前から入社後までを一貫したファネルとして捉えます。ファネルとは、マーケティングにおいて顧客が商品やサービスを認知してから購入に至るまでの流れを図式化したフレームワークです。
顧客がある商品を認知しても、認知した全員が興味を抱き「使ってみたい」と感じるわけではありません。また、商品を知り興味を持ったとしても、他社商品と比較したり購入する必要がないと考え、購入をやめる人もいます。このように、一般的な購買行動において、認知してから購入というゴールに至るプロセスで人数は少なくなっていきます。
この考え方を採用領域にあてはめると、下図のようになります。
自社を知っている層が最も多く、興味を持つ、応募・選考に進むといった段階を経た数%が入社に至ります。
採用マーケティングではこういったファネルにターゲットを切り分け、理想の人材が入社するまでの戦略を設定します。入社してほしいターゲット層のニーズに沿った情報提供を行い、認知から興味、応募、選考…と行動が変容するように促すのです。
このように採用マーケティングでは、求職者が自社を認知してから入社するまでで終了とするのではなく、入社後の活躍まで広くターゲットとしていることが特徴です。長期的かつ広範な活動を行うことで、企業と候補者がマッチングしやすくなるだけでなく、内定辞退や早期離職の防止といった効果も期待できます。詳しくは、後述の採用マーケティングのターゲットで説明します。
採用マーケティングと併せて語られることが多い言葉に「採用ブランディング」があります。
採用ブランディングとは、理想の人材を採用するために、自社のあり方やカルチャーを対外的かつ継続的に発信する手法のことです。自社のブランドイメージを定着させ「〇〇と言えば、あの企業」と求職者に想起してもらうことを目指します。「自社はどんな商品・サービスを扱っているか」という情報だけでなく、「商品・サービスを通じて自社が成し遂げたいこと、大切にしていることはなにか」という想いやストーリーを大きく打ち出します。自社のイメージをどのように構築するかという点に注力しています。
ではなぜ、採用マーケティングの考え方が注目されているのでしょうか?それは、従来のようにナビサイトで広告を打ったり、人材紹介サービスの活用だけでは、候補者が集まりにくくなってきているためです。要因としては、大きく「労働人口の減少」「採用手法の多様化」「新卒採用の早期化・長期化」の3つが挙げられます。
パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」によると、2030年には人材が644万人不足すると推計されています。
また、リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査(2022年卒)」によると、2022年度は民間企業の求人総数67.6万人に対し、学生の民間企業就職希望者は45.0万人でした。つまり、民間企業への就職を希望する人数に対して、求人の総数が22.6万人といった超過需要にあったことがわかります。コロナ禍であっても依然として売り手市場の状況でした。求職者数よりも求人数が多いため、限りある優秀な人材を各企業で取り合う構造が存在し、今後も続いていくであろうと予想されます。企業間の競争が激化する中で、いかに求職者から見つけてもらい、マッチングするかが目下の課題となっています。
これまでは、紙媒体・人材紹介・就活サイト・転職サイトといった採用手法が一般的でした。しかし、HR総研「キャリア採用に関する調査」によると、近年はダイレクトソーシングや、社員や取引先を通じたリファラル採用が「今後利用が高まると思われるキャリア採用の手段・サービス」として大きく注目されています。
それぞれの採用手法は手間・コスト・アプローチできるターゲット・訴求方法などに違いがあり、手当たり次第に始めればいいということではありません。どの手法をどのように活用していくか、戦略的に選ぶ必要があります。採用手法を見直すことでこれまでアプローチできなかったターゲットに訴求できる可能性も生じます。
新卒採用でも戦略の見直しが求められています。
ディスコの「キャリタス就活2022 学生モニター調査結果」によると、2022年卒業予定の学生の5人に1人(21.1%)は、大学3年生で内定を獲得していました。
また、メルカリ、ファーストリテイリング、ソフトバンクなどは通年採用を実施しています。新生銀行、りそなホールディングス、みずほファイナンシャルグループでも、採用回数を増加したり春・秋の採用をスタートする動きがあります。
「採用時期が来たら一気に採用広告を出す」という手法のみでは、人材採用が難しくなってしまう可能性があります。新卒採用においても、長いスパンで学生とつながりエンゲージメントを向上させ続け、学生のタイミングに合わせて情報を届ける重要性が大きくなっています。
では、採用課題を解決するために、企業は何から見直していくべきでしょうか。一つは「採用ターゲット」です。
従来の採用手法では「転職顕在層」のみをターゲットとしていましたが、採用マーケティングでは、転職顕在層だけでなく、転職潜在層、自社の社員、アルムナイ(退職者)、過去不採用になった候補者や内定辞退者までにも目を向けることで、採用のターゲットとなる層を広げて考えます。
自社の社員もまた、採用マーケティングにおいてはターゲットとなります。なぜなら、マーケティングの考え方で言えば「社員=既存顧客」とみなすことができ、戦略上重要なポジションだからです。社員がモチベーション高くはたらき、会社に愛着を持つファンとなることを目指します。ファンとなった社員から、SNS・Web・口コミでの好意的な情報発信やリファラル採用の活性化、社外のファン創出が期待できます。社員のエンゲージメントを高めるには、社内広報(インターナルコミュニケーション)のほか、パフォーマンス高くはたらくことができるポジションへの配置や、キャリア支援・人材育成・はたらく環境の整備といった施策も有効です。
アルムナイ(alumni)とは、卒業生・同窓生・校友といった意味の言葉で、定年ではない理由での離職者・退職者のことを指します。アルムナイネットワークは、外資系コンサルティングファームや国内の先進的な企業で特に活用されています。アルムナイには採用マーケティングで見逃せない3つの側面があります。1つ目は、採用候補者としての側面です。一度退職した元社員とのつながりを保ち、良い関係性を築くことで、いわゆる「出戻り社員」として再雇用につなげられる可能性があります。アルムナイの中には、元の会社に戻りたいと考える人も一定数存在するためです。
企業側から見ても、アルムナイはすでに自社の文化や業務を知っているので即戦力になるというだけでなく、他社でナレッジやノウハウを身に着けているという魅力があります。2つ目は、良質な情報発信者としての側面です。アルムナイはマーケティングで言えば「製品やサービスの体験者」です。アルムナイの就業経験はすなわち、リアルで信頼性の高い口コミとなり今後の採用活動に大きな影響を与えます。3つ目に、自社の顧客としての側面です。アルムナイが自社と近い属性の業態に転職していれば、自社の未来の顧客・ファンとなることもあります。
このように良質なアルムナイがもたらす効果は大きく、採用マーケティングの観点からも決して見逃すことはできません。
過去不採用になった応募者、内定辞退者といった選考参加者も採用マーケティングの対象です。
選考参加者を、不採用だからといってないがしろにしてしまうと、SNSや口コミでネガティブな発信をされてしまうリスクがあります。ネガティブな拡散を防ぐだけでなく、選考参加者は時期が変わることでスキルマッチや意向醸成が可能になり、再度候補者となることもあります。内定辞退者や最終選考まで残った候補者ほど、マッチング度が高い可能性があります。
ここまで、採用マーケティングが注目されている背景と従来の採用とのターゲットの違いを述べてきました。では、採用マーケティングを取り入れることでどのようなメリットがあるのでしょうか?
採用マーケティングでは、従来の採用よりも広くターゲットを設定します。すぐに転職を考えていない潜在層や、従来であればターゲット外とされていた退職者や選考参加者に向けても発信を行います。潜在層の認知変容を起こすことができれば、これまでよりも多くの応募数が見込め、採用の精度が上がることが期待出来るでしょう。
採用マーケティングでは、採用したい理想のペルソナを設定することでロードマップが最適化され、自社にマッチする人材が見つけやすくなります。潜在層に向けた情報発信では採用情報に限らず、自社のメッセージ、社員、文化、福利厚生といった魅力を多角的に伝えます。そのため、応募に至った時点ですでに求職者にも自社のはたらき方や文化が一定理解されていることに加え、内定辞退や入社後の早期離職の割合低下も期待できます。
採用マーケティングでは、訴求したいターゲットに向けた採用ファネルとチャネルを設定します。効果的な訴求と広告の設計により、広告費などが最適化され、長期的な採用コスト・育成コストの削減も見込めます。採用マーケティングはコンテンツやナレッジが蓄積されるとともに、改善しながら繰り返し使うことができるため、コストパフォーマンスが高い安定した施策となることも期待できます。
採用マーケティングを自社の戦略に取り入れたいとき、何から始めればよいのでしょうか?採用マーケティングの実践方法を6つのステップで解説します。
まずは自社の分析を行います。経営理念・経営戦略・事業計画から、強みと弱みを認識しましょう。このとき、以下のような思考フレームワークを使用することもできます。
▼3C分析Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの視点で事実を整理し、マーケティング環境を抜けもれなく把握する方法▼SWOT分析縦軸に内部環境/外部環境、横軸にプラス/マイナスをとり、4象限をつくることで、自社の状況をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)に分類する方法
STEP1で得られた自社の情報をもとに「自社にどのような人材が必要か」「どのような人材に来てほしいか」を明文化しましょう。ここで定めた人材像が「ターゲット」となります。このとき、「コミュニケーション能力」のような多義的に読み取れる言葉ではなく、具体的な言葉で定義するように注意しましょう。ターゲットが明確になったら、もう一段掘り下げ、ペルソナを作成します。ペルソナとは「ターゲットを象徴する人物設定」であり、「自社が採用活動で求める理想の人物像」のことです。求職者の行動の関連性や根底にある価値観を把握するために、好き嫌いといった生活態度や生きがい、夢、それを叶えるためにどのような努力をしているのか、といった部分まで作り込み、理解するようにしましょう。
▼ペルソナの設定
・バイオグラフィ(年齢/性別/現在の職種/業種/現年収/居住地/資格)・パーソナリティ・行動・振る舞い・普段利用するチャネル・転職理由 など求める人材像がいくつかある場合はペルソナも複数のパターンを設定します。パターンを作ることで、職種・重視する要素・職務階層などに応じたセグメントも可能です。
ただし、ターゲット層を代表するペルソナを作成するという点は意識しておきましょう。「海外の大学を飛び級で卒業し、休日は経済の勉強に費やし、起業の経験があり…」といった理想が高いペルソナを設定すると、マッチする人材が見つからない可能性があります。ターゲット層の共通項を抽出してペルソナを作成すると、大きく外れにくくなります。ニーズを客観的に把握するために、アンケート調査やインタビュー調査をリサーチ会社へ依頼するなど、外部の視点で分析することもおすすめです。
ペルソナが設定できたら、キャンディデイト(求職者)ジャーニーを設定します。キャンディデイトジャーニーとは、カスタマー(顧客)ジャーニーを求職者向けにアレンジしたものです。求職者の行動や嗜好を感情の時間軸に沿って「見える化」し、情報収集から応募・入社の意思決定までのストーリーを組み立て、どのようなプロセスを経て採用に至るのかを明確にします。どのチャネルで求職者と接点を持ち、どのようにメッセージを訴求するのかを考える手助けになります。全体設計は以下のような段階で行います。
キャンディデイトジャーニーで設定したストーリー(ファネル)に応じたチャネルを設定しましょう。フェーズごとに求職者が求めているニーズに対してどのように情報を提供するかアプローチを考えることで、効果的に魅力を伝えることができます。
広告・イベント・メディアのコンテンツを準備します。記事や動画を活用する場合は準備の工数がかかるため、内製にこだわらず外注するという選択肢も持っておくべきでしょう。ただし、最近ではノーコードでできるCMS(コンテンツ管理ツール)や動画作成をサポートするツールも充実しているので、自社で運用可能な使いやすいものから始めるのも一つの手段です。
従来の採用では、担当者の記憶・経験・勘に頼らざるを得なかったかもしれません。しかし、採用マーケティングでは、記録・傾向・客観性という新しい武器を手に入れることができます。自社へのエントリー率、ウェブサイトのページビュー数、メールの開封率、説明会への参加率、面接の実施率、被紹介者の応募率…といったデータを管理・分析し、改善に繋げましょう。例えば、配信されたコンテンツがターゲット層に訴求出来ていたのか、自社のどのポイントに魅力を感じてもらえ、どのような人材が活躍しているのかといったデータを振り返ることで新しい気付きを得ることができます。実際の求職者の動きからペルソナやキャンディデイトジャーニーが正しく現実を反映していたのかを答え合わせすることも必要です。なお複数のシステムでデータを管理・分析すると多くの工数がかかってしまうため、ATS(採用管理システム)の活用がおすすめです。HITO-Linkリクルーティングは、新卒・中途領域の採用に特化したクラウド型採用支援システムで、あらゆる経路からの応募情報を一元管理し、面接から承諾までの採用担当者の業務工数を圧倒的に削減します。グループウェアや労務ソフトなど、さまざまなシステムとの連携や、マイページ発行機能、WEB履歴書機能、求人案件管理機能、分析機能など多彩な機能を搭載しているので、これまで多岐に渡っていた煩雑な業務を一括管理することが可能です。
サービス資料のダウンロードはこちら労働人口の減少や、採用手法の多様化などにより、今後も採用マーケットは激化・複雑化していくことが見込まれます。従来の採用だけでは限界があり、採用手法の変化が迫られています。「自社にとっての優秀な人材」の定義を改めて見直し、ターゲット層に最適化した採用マーケティングの考え方を身に付け実践することで、理想の人材に求められる会社へと舵を切ることが出来るでしょう。
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