KDDIは2021年7月6日、動画配信プラットフォーム「OPENREC.tv(オープンレックティービー)」を運営するCyberZと業務提携すると発表した。ゲーム実況やeスポーツなど、ゲーム関連の映像配信に強みを持つCyberZとの提携は、KDDIにどのようなメリットをもたらすのだろうか。
スマートフォンゲームが国内のゲーム市場における主流の座を獲得して久しいが、最近ではゲームプレー人口の増加に伴って周辺ビジネスも拡大し、注目度が高まってきている。eスポーツや、ゲームのプレー動画を配信する「ゲーム実況」などがその典型例といえるだろう。
そうしたこともあってか、ゲームの周辺ビジネスに携帯電話事業者が関与するケースが増えている。既にNTTドコモは2021年1月にeスポーツリーグの「X-MOMENT」を立ち上げ、複数のeスポーツリーグを運営開始しているが、新たに大きく動いたのがKDDIである。
KDDIもこれまでeスポーツに関して幾つかの取り組みを進めているが、2021年7月6日には新たにCyberZと業務提携を締結。新たなゲーム配信・視聴体験の提供に取り組むと発表した。
KDDIは2021年7月6日に「OPENREC.tv」を運営するCyberZとの提携を発表。ゲームのライブ配信に強い同社との提携で、ゲーム動画配信・視聴体験の強化を進めるとしている(出所:KDDI)[画像のクリックで拡大表示]提携相手のCyberZはサイバーエージェントの子会社で、スマートフォンの広告やゲームの周辺ビジネスを主力とする企業だ。eスポーツイベント「RAGE」などを運営していることでも知られる。今回の提携の中心でもあり、なおかつ同社の主力サービスの1つとなっているのが映像ライブ配信プラットフォームのOPENREC.tvである。
OPENREC.tvはサービス開始当初からゲーム実況動画配信に力を入れていたこともあり、ゲーム関連のライブ配信に強みを持つサービスとして人気を集め、400万会員を獲得するサービスにまで成長。現在ではユーザーによる映像配信だけでなく、オリジナルの番組制作やeスポーツ大会の配信なども実施しており、既に累計100万本以上のコンテンツを展開しているという。
OPENREC.tvはユーザーによるゲームプレーのライブ配信の他、オリジナル番組やeスポーツ大会などの配信も実施しており、累計100万本以上のコンテンツを展開してきたという(出所:KDDI)[画像のクリックで拡大表示]では、OPENREC.tvと連携するKDDIの狙いは何だろうか。
1つはやはり、双方の会員基盤を生かした「送客」にあるようだ。KDDIは同社の有料会員プログラム「auスマートパスプレミアム」の会員向けにOPENREC.tvの有料会員限定動画の一部を無料で視聴できるようにする。この他、OPENREC.tvのプレミアム会員(月額550・税込み)を契約すると30日間無料で利用できる特典も提供する。
提携により「auスマートパスプレミアム」会員はOPENREC.tvの有料会員向け動画の一部を視聴できるようになる他、OPENREC.tvのプレミアム会員が30日間無料で利用できる特典も提供する(出所:KDDI)[画像のクリックで拡大表示]そしてもう1つは配信者や視聴者を支援する取り組みだ。5G(第5世代移動通信システム)やAR(拡張現実)などKDDIが持つ最新の技術を活用した新しい映像配信の企画提案を配信者に勧めていく。さらにOPENREC.tv内に配信者と視聴者を応援するチャンネルを開設し、KDDIや、パートナー企業のテレビ番組制作や音楽レーベルなどと共同でゲーム大会やオーディション企画などを実施することも検討しているという。
配信者や視聴者を応援する新しいチャンネルを両社で開設し、パートナー企業らと楽しみの幅を広げるコンテンツを提供する取り組みも進めていくとしている(出所:KDDI)[画像のクリックで拡大表示]先にも触れた通りゲーム関連のライブ配信サービスは近年大きく盛り上がっている一方で、世界最大手とされる米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)の「Twitch」をはじめとして国内外に競合が多く存在しており、サービス間の競争が激化している。そうした意味でもCyberZにとっては、大きな顧客基盤を持つKDDIとの提携でOPENREC.tvの会員数を増やし、競合と差をつけたい狙いがあったといえよう。
OPENREC.tvはマルチデバイス対応の映像配信サービスだが、CyberZの取締役である兵頭陽氏によると、視聴者の約半数がスマートフォンから視聴しているという。そこでスマートフォンやモバイル通信サービスに強みを持つKDDIとの提携が、OPENREC.tvを拡大する上でメリットになると判断したといえそうだ。兵頭氏は一連の取り組みによって、OPENREC.tvの会員数を400万から1000万に拡大したいとしている。
では一方のKDDI側は、どこにメリットを感じて提携に至ったのだろうか。KDDIのパーソナル事業本部 サービス統括本部 5G・xRサービス戦略部 部長の天野圭氏は、その理由として5Gによる顧客の体験価値向上を挙げている。
今後5Gのネットワーク整備が進めば、高速大容量・低遅延といった特性がゲームやライブ配信サービスに大きく寄与していく。そこでOPENREC.tvのコンテンツを取り込んで、顧客に5Gによる新しい体験価値提案をしていきたい考えのようだ。KDDIが現在力を入れている5Gのネットワークと、OPENREC.tvの主力であるゲームプレーの映像配信サービスとの相性は非常に良く、5Gの利用を拡大する上でメリットとなることは確かだろう。
ただ気になったのは、今回の提携ではOPENREC.tvのサービスに対するKDDIの関与の度合いが小さいことだ。それはここ最近、同社が国内インターネットサービスと提携した際の施策と比べてみるとよく分かる。
例えば2021年6月にフードデリバリーサービスを提供するmenuと資本・業務提携を締結した際は、同社に50億円を出資してau IDの基盤を活用するという密接な連携を打ち出した。また同じ映像配信サービスであれば、KDDIは2020年3月にライブ配信プラットフォームを提供するSHOWROOMとも提携しているが、その際はファンドを通じて同社への出資も実施し、有料動画配信サービス「smash.」の立ち上げを支援するなど積極的な関与を打ち出していた。
それらと比べると今回の提携はKDDIの関与の度合いが明らかに小さいように見える。そこには出資を伴わない提携であることに加え、OPENREC.tvがUGC(User Generated Contents、ユーザー生成コンテンツ)の側面が強いサービスであることも影響しているといえそうだ。UGC系サービスは関与の仕方次第で、これまで培ってきた配信者や視聴者のコミュニティーに悪影響を与え、顧客離れを起こす可能性がある。このため、サービス内容に深く関与するのをあえて避けたのではないかとも考えられる。
実際天野氏は、今回の提携で「OPENREC.tvがこれまで大事にしてきた、配信者とともにゲームの魅力を届けるコンテンツの追求を強化する」と話しており、UGCとしての側面を重視した上でOPENREC.tvを強化していく方針を打ち出していた。サービスとの適度な距離感を保ちながらも、いかに自社へのメリットをもたらすことができるかが、KDDIには問われることとなりそうだ。
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